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リスクアセスメントを始めませんか?

今日、日本の科学技術も製造業も世界トップレベルにあり、当然安全成績もトップレベルに近いと認識されているかもしれない。全産業の1年間の労働災害による死亡者数は、6年前の2015年から1,000人を下回っているが、第三次産業の割合の増加や労働者の高齢化の進展などの要因から顕著な減少傾向にはない。

 労働災害死亡者数の約3割を占める建設現場の安全成績について、トップクラスの諸外国と比較してみよう。20032005年の統計では、建設現場の作業員10万人当たりの死亡者数は、イギリスが3.1人、ドイツが4.7人、に対し日本は9.4人となっている。何と、日本の建設現場はイギリスより3倍、ドイツより2倍危険であるという結果が出ている。ちょうど日本にリスクアセスメントの考え方が入ってきたのが、2000年代半ばである。そのころから、日本の建設現場の死亡者数は漸減傾向にはあるが、これらトップクラスの国々との差は、それほど縮まっていないだろう。

 私は、2016年まで建設会社に勤務していたが、リスクアセスメントは協力会社が作成するものという意識しかなかった。近頃も、安全パトロールや大阪労働局の勤務で建設現場の現状に触れることができるが、リスクアセスメントの現場での位置づけは大きくは変わっていないと感じる。

何が原因で建設現場の労働災害が先進国なみに減らないのだろうか、やはりリスクアセスメントに関する理解が浅く本質的な活用ができていないのが大きな問題なのだろう。具体的には、協力会社にリスクアセスメントを任せきっていること、その結果リスクアセスメントがKYK(危険予知訓練)の時に追加的に行う作業者の自主的活動ぐらいにしか一般的に理解されていないこと、である。

この状態を打開するには、各事業場のトップ(現場所長)が先頭に立ち明確に旗を振ることが必要である。また、その前提として建設会社の経営者が「リスクアセスメントを活用して労働災害を減らす」との明確な方針を表明することが重要であることは言うまでもない。